• 書体名: Moore Computer
  • ファウンドリ: Visual Graphics Corporation(VGC)123
  • 種類: 写植書体
  • デザイナー: James H. Moore14。Luc Devroye は David Moore としている2
  • 年: 1968年(下記で説明)

Fonts In Use と Luc Devroye は、1968年の書体としている12。Zachary Whalen の博士論文『The Videogame Text』(2008年)は「早ければ1968年」とし、その年は、書体名・年・ファウンドリをまとめた未完成のデータベース(Tim Ryan が作り、Grant Hutchinson が引き継いだ「Typeface Namebase」)によるもので、図版も裏付けもない、と断っている5。

Boston Globe に載った死亡記事によると、James H. Moore(1932〜2023年)は、米国マサチューセッツ州リン生まれ。空軍で印刷の植字の仕事をして活字に興味を持ち、ボストン大学で美術を学んだ(1960年卒業)。ボストンの広告会社のアート・ディレクターを経て、広告の組版の会社 Typographic House の経営者になった6。Fonts In Use によれば、1962年に Typographic House に入り、1967年から1991年まで社長を務めた。写植用の書体を4つデザインし、どれも使用料の契約で VGC に供給した。そのひとつが Moore Computer4。

E-13B は、小切手などの番号を機械で読み取る磁気インク文字認識(MICR)のための書体で、数字と記号のみの書体。Moore Computer は、その数字に英字を補った書体。Whalen は、E-13B にもとづく最初の完全なアルファベットとしている5。

数字は、0(ゼロ)を除いて E-13B と同じ形。M・N・W・0(ゼロ)に、字から離れて浮いた四角があるのが特徴(Whalen は floating slab と呼ぶ)7。

The Encyclopaedia of Type Faces は、1970年版・1983年版とも、E13B の項(p.265)で「MOORE COMPUTER complements the numerals.」と、E-13B の数字を補う書体として名前を挙げている。見本は E-13B の数字のみで、Moore Computer の英字は載っていない8。Whalen は、Moore Computer の名前が載った現存する最も古い出版物を、この本としている3。

1970年10月の『レタリング&タイポグラフィ』創刊号の記事「コンピューター文字」は、Moore Computer の全字の見本を載せ、次のように紹介している9。

図版のキャプションも「印字される磁気インクの量を変えて機械が読みとれるようにデザインされた書体MOORE COMPUTER」9。

1972年の桑山弥三郎 編著『グラフィック・エレメント集 6 装飾アルファベット』は、「モダン・スタイル」の分類に「モア・コンピューター」(No.125、146ページ)としてシカゴのモンセン・タイポグラファーズの写植書体の見本を載せ、『レタリング&タイポグラフィ』創刊号とほぼ同じ文で「アメリカ銀行家協会が作った機械が読みとれて人間も読めるという条件でデザインされた書体」「日本でも小切手や商券などに使用している」と説明している。さらに「この書体は他のコンピュータ・スタイルの書体に大きな影響を与えた」とし、次の No.126 に Gemini を載せている10。

『基本レタリング』は、1976年の初版(水谷元彦・真覚静子 共著)から、1987年版、1990年の改訂版(真覚静子 著)まで、「コンピュータ文字」の頁で「MICR-E13B フォント〈Magnetic Ink Character Reader:磁気インク読とり装置〉」として見本を載せている。Moore Computer の名前はないが、書体は Moore Computer11。

中田功『レタリング入門 アルファベット』(1978年)は、「マトリックス」の項で Moore Computer と G.K.W. Computer の見本を載せ、「Magnetic Ink Character Reader(磁気インク読取装置)用」にデザインされた字形としている12。1983年の版にも同じ見本がある13。

いずれも、Moore Computer そのものを、磁気インク文字認識のための書体として紹介している。しかし、米国銀行協会(ABA)が機械で読むために決めたのは数字と記号の E-13B で、英字を補った Moore Computer は VGC の写植書体。小切手で使われているのも E-13B の数字と記号のみ。E-13B と、それをもとにした Moore Computer を混同している。

Monotype から「Computer」の名でデジタル版が出ている114。販売サイトとフォントの情報には、デザイナーの名前はない1415。

このほか、Damien Guard が、Moore Computer をもとにした 8×8 ドットのビットマップフォント「Computer」を、2019年にフォント集「ZX Origins」で公開している16。

主に日本での使用例を追加していく予定です。

「モダン・スタイル」の分類に「モア・コンピューター」(No.125、146ページ)。シカゴのモンセン・タイポグラファーズの写植書体として見本と解説。次の No.126 は Gemini。

書体見本と解説(p.89、「コンピュータ文字」の頁)。「MICR-E13B フォント」の名で Moore Computer の見本。1987年版・1990年の改訂版も同じ見本。

書体見本と解説(p.100-101)。「Moore Computer」と「G.K.W. Computer」の見本(p.101)。「マトリックス Matrix」の項(p.100)で、MICR(磁気インク読取装置)用にデザインされた字形として説明。

欧字書体集

書体見本のみ掲載(p.58)。書体名は「コンピューター」(カタカナ表記のみ)。大文字と数字。同じページに「ウェストミンスター」も掲載。書体の一覧(p.15)にも小さな見本。デザイナー・年の記載なし。

The Encyclopaedia of Type Faces

E13B の項(p.265)で名前を挙げる(「MOORE COMPUTER complements the numerals.」)。見本は E-13B の数字のみ。1970年版も同じ記載。

レタリング入門 アルファベット

書体見本と解説(p.100-101)。「Moore Computer」と「G.K.W. Computer」の見本(p.101)。「マトリックス」の項(p.100)で、MICR 用にデザインされた字体として説明。1978年の版の後の版で、見本は同じ。説明の言い回しが異なる。

1987年版(p.87)。見本は初版と同じ。

1990年の改訂版(p.85)。見本は初版と同じ。

欧文書体集1488

書体見本のみ掲載(p.262)。書体名は「MOORE COMPUTER」。同じページに Moore Liberty も掲載。分類別索引(CI-51)では「COMPUTER」に分類。デザイナー・年の記載なし。

アルファベット書体集330

書体見本のみ掲載(p.108)。大文字・数字・記号。デザイナー・年の記載なし。

書体見本(p.118)。大文字、数字、約物、¢・¥ のほか、最後の行に E-13B の記号(トランジット・アマウント・オンアス・ダッシュ)に似た形の記号を載せる。スタンダードな書体200書体を、版下に使う清刷(印刷の見本)として1書体1頁で収めた本。1993年1月の初版第1刷で確認(著作権表示は1992年)。

ABCのみほん

書体見本と解説(p.206-207、「ファンシー」の章)。書体名は「Computer」。「Fancy / Space Age」に見本。章の解説で「Computer」「Data 70」「OCR」などを、磁気読取や光学認識用の文字をもとにした書体として紹介。

文字とタイポグラフィの地平

『レタリング&タイポグラフィ』の各号を紹介した本。創刊号(1970年10月)の記事「コンピューター文字」の誌面を再録(p.250)。Moore Computer の全字の見本。

SF映画のタイポグラフィとデザイン

書体見本と解説(スティーヴン・コールズへのインタビュー)。書体名は「Computer」。コールズは「MICRと呼ばれているジャンル」の書体として挙げる。見本の数字には「米国の銀行の小切手で使われている、MICR(磁気インク文字認識)標準の数字」と付記。

  1. Fonts In Use「Moore Computer」(2026年9月27日閲覧) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. Luc Devroye「VGC Typefaces」(「Moore Computer, Typehouse / david Moore, 1968」。2026年9月27日閲覧) ↩ ↩2 ↩3

  3. Zachary Nathan Whalen, The Videogame Text: Typography and Textuality, University of Florida, 2008, p.65 ↩ ↩2 ↩3

  4. Fonts In Use「James H. Moore」(2026年9月27日閲覧。「Typographer, art director, type designer, 1932–2023」「Moore is the designer of four typefaces intended for photolettering, all supplied to VGC under a royalty contract.」) ↩ ↩2

  5. Zachary Nathan Whalen, The Videogame Text: Typography and Textuality, University of Florida, 2008, p.64-65(注7: 「Typeface Namebase」について「the information lacks illustrations of the designs and corroborating references on their origins」) ↩ ↩2

  6. 「JAMES MOORE Obituary (1932 - 2023)」Boston Globe(Legacy.com)。本文は、葬儀を行った Solimine Funeral Home の追悼ページ(Tribute Archive)にも掲載(2026年10月12日閲覧) ↩

  7. Zachary Nathan Whalen, The Videogame Text: Typography and Textuality, University of Florida, 2008, p.65-67 ↩ ↩2 ↩3

  8. W. Pincus Jaspert, W. Turner Berry, A. F. Johnson, The Encyclopaedia of Type Faces, Blandford Press, 1970(p.265)・1983(p.265)「E 13 B」の項(「A type face designed to meet the needs of magnetic character recognition in automatic cheque and document reading equipment. MOORE COMPUTER complements the numerals.」「Monotype and others」) ↩

  9. 「コンピューター文字」『レタリング&タイポグラフィ』創刊号、日本レタリングデザイナー協会、1970年10月。誌面はアイデア編集部編『文字とタイポグラフィの地平』(誠文堂新光社、2015年)に再録 ↩ ↩2 ↩3

  10. 桑山弥三郎 編著『グラフィック・エレメント集 6 装飾アルファベット』柏書房、1972年、146ページ(No.125)と解説 ↩

  11. 水谷元彦・真覚静子『基本レタリング』鳳山社、1976年、89ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)。真覚静子『基本レタリング』鳳山社、1987年、87ページ。同『改訂 基本レタリング』鳳山社、1990年、85ページ ↩

  12. 中田功『レタリング入門 1 アルファベット』美術出版社、1978年、100・101ページ ↩

  13. 中田功『レタリング入門 アルファベット』美術出版社、1983年、100・101ページ ↩

  14. 「Computer Font」MyFonts(2026年10月12日閲覧。「published by Monotype」、スタイルは Computer Std Regular) ↩ ↩2

  15. フォントファイル「ATComputerStd.otf」(MyFonts で購入)の name テーブル(「Copyright © 2017 Monotype Imaging Inc.」、Version 1.000 Build 1000。デザイナーの欄はない) ↩

  16. 「Computer」DamienG(2026年10月12日閲覧)。「I designed this font back in 2019 in BASIN to interpret the 1968 font Moore Computer developed by James H. Moore of Typographic House in 1968.」 ↩